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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2495号 判決 1982年11月29日

控訴人

山下茂一

(旧姓 長田)

右訴訟代理人

筒井健

被控訴人

有限会社中山材木店

右代表者

中山カヨ

右訴訟代理人

山崎正

片岡彦夫

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

との判決

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

との判決

第二  主張

一  請求原因

1  被控訴人は、昭和五二年九月一九日控訴人(昭和五五年一月一〇日訴外山下やえとの養子縁組により旧姓長田を山下に改姓)から同人所有に属する埼玉県桶川市大字坂田字目沢一六三〇番一宅地50.28平方メートル(以下本件土地という。)をその地上建物とともに代金四四〇〇万円で買受け、そのころ右代金の支払いを了した。

2(一)  本件土地には、昭和五二年六月二九日付で、訴外久下栄一を債権者として控訴人を債務者とする浦和地方裁判所川越支部昭和五二年(ヨ)第一二四号仮差押事件の決定に基づく仮差押の登記(以下本件仮差押登記という。)がなされている。

(二)  右仮差押事件の被保全権利は、久下が別紙目録記載の手形所持人として、同目録(1)(2)(以下本件約束手形(1)(2)という。以下同断。)については裏書人であり、同(3)については保証人である控訴人に対し、合計七八〇万円の支払いを求める手形上の遡求権である。

3  被控訴人は、本件仮差押登記を抹消するため、昭和五二年一一月二一日控訴人に代位して久下に対し六〇〇万円(本件約束手形(1)(2)の全額、同(3)のうち二〇万円にそれぞれ充当)を支払つて本件仮差押登記の抹消を得た。

4  よつて、被控訴人は控訴人に対し、法定代位の規定に基づき右弁済金六〇〇万円及びこれに対する右弁済の日の翌日である昭和五二年一一月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2(一)(二)は認める。

2  同3のうち本件仮差押登記が抹消されたことは認めるが、その余の事実は不知。

三  抗弁

1  控訴人と被控訴人は、本件売買契約の際、被控訴人が控訴人の承諾なく久下に対し本件約束手形の弁済をしない旨の特約をした。しかるに、被控訴人は右弁済につき控訴人の承諾を得なかつた。よつて、被控訴人の弁済は法定代位の効果を生じない。

2  久下の控訴人に対する債権は約束手形金請求権であるから、被控訴人が久下に代位弁済をした場合には、本件約束手形の交付を受けるべきであり、控訴人は、被控訴人の本件求償権の行使については、本件約束手形の交付があるまで、本件金員の支払いを拒絶する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち被控訴人が控訴人の承諾を得ないで久下に弁済したことは認めるが、その余は否認する。

2  同2のうち、被控訴人が久下に本件約束手形金の支払いをした際、被控訴人が同人から約束手形の交付を受けなかつたことは認める。

第三  証拠<省略>

理由

一被控訴人が訴外久下に対し金六〇〇万円を控訴人に代つて弁済のために支払つたとの点を除いて、被控訴人が請求原因として主張する事実関係は当事者間に争いがなく、右弁済の点は<証拠>に、前記争いのない事実を斟酌すると優にこれを認めることができる。

二しかしながら、法定代位により被控訴人が控訴人に対して有するに至つたとされる求償権は、別の角度からみれば、従前久下が控訴人に対して有した手形金債権が被控訴人に移転したものにほかならないはずであり、しかして約束手形上の権利は約束手形がいわゆる呈示証券であることからこれを所持する者のみが行使しうるのはもちろんで、被控訴人が現に本件各約束手形を所持していないことは口頭弁論の全趣旨によつて明らかであるから、被控訴人の本件請求はこの点において既に失当であるといわなければならない。

三それ故、被控訴人の請求を認容した原判決は不当であるから、これを取消したうえ、右請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(石川義夫 寺澤光子 寒竹剛)

目録

(3)

(2)

(1)

番号

¥2000000

¥800000

¥5000000

金額

(円)

昭和52.6.17

昭和52.5.20

昭和52.4.9

満期

(昭和 年 月 日)

埼玉県所沢市

右同

東京都清瀬市

支払地

埼玉県入間市

右同

同上

振出地

株式会社大生相互銀行

狭山ヶ丘支店

右同

株式会社埼玉銀行清瀬支店

支払場所

昭和52.5.1

昭和51.11.10

昭和51.10.4

振出日

(昭和 年 月 日)

長田自動車工業

有限会社

右同

筒井歯科医院こと筒井整一

振出人

久下栄一

右同

長田茂一

受取人

同上

(支払拒絶証書作成義務免除)

同上

(支払拒絶証書作成義務免除)

同上

(支払拒絶証書作成義務免除)

第1裏書人

(白地)

(白地)

(白地)

被裏書人

東和建設株式会社

(支払拒絶証書作成義務免除)

長田自動車工業有限会社

(支払拒絶証書作成義務免除)

所持人久下栄一

(支払拒絶証書作成義務免除)

第2裏書人

(白地)

(白地)

(白地)

被裏書人

所持人久下栄一

(支払拒絶証書作成義務免除)

所持人久下栄一

(支払拒絶証書作成義務免除)

(支払拒絶証書作成義務免除)

第3裏書人

(白地)

(白地)

(白地)

被裏書人

保証人長田茂一

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